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しかし、においはやってくる。
このにおいは手如きで隠しきれるものではないのだ。
私の鼻と口を覆っている手に、液体が当たるのが分かる。
朝、ガスマスクと顔に少しだけ隙間を開け、そこから口の中に押し込む方法でパンと目玉焼きを食したのを覚えている。
おそらくそれだろう。
それが食道から逆流し、口から出てしまったのだ。
私は膝まづいて、鼻をつねる。
なんとかにおいを消そうとした。
しかし、どうしてもにおいは消えなかった。
「君、そのマスクを返してあげなさい」
おじさんっぽいその声とともに、膝まづいて吐瀉を続ける私の前にガスマスクが落とされた。
私はそれをすぐさま手に取り、顔にかけた。
やっとにおいが取れた。
少しだけ冷静になった私は、膝まづいた状態からゆっくりと立ち上がった。
「なんなんだよ、気持ち悪い」
この状況を想定していなかった水木から、そんな声が漏れた。
「君、大丈夫か?」
私はその声を無視して歩いた。
ちょうど電車が駅についたのだ。
私が本来目的としていた駅ではないが、私はその駅で降りた。
セーラー服についた吐瀉物を見て、本日学校に行くのをあきらめたのだ。
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