1話 臭い世界

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そのターゲットは、私だった。 希美ちゃんを守れなかった絶望とイジメの恐怖から、私は学校に行けなくなった。 しかし、それは少しの間だけだった。 私の両親は、私が引きこもることを良しと思わなかったのだ。 学校に行けない私は罵倒され、車で学校まで連れて行かれた。 彼らは自らの子供が引きこもりになるなんて恥ずかしいと言った。 結局、私の両親は私の辛さを押しつぶして、自らの世間体を取った。 人間は自分のことしか考えていないんだ。 そう理解してしまった私は、ひどく人間の放つにおいに敏感になってしまった。 このガスマスクをしていないと吐いてしまうほどに、敏感になってしまった。 一度、周りに人間がいない時にこのマスクを外そうとした。 そうすれば、においは気にならないだろうと思った。 しかし、ダメだった。 私の周りから人間が消える状況なんてありえないんだ。 私は、私自身が人間なのだから。 私はビルの前に立った。 都合よく廃墟となっていた5階建てのビルがあったから、そのビルの階段を上っていった。 屋上までたどり着いた私は、歩みを止めない。 ビルの屋上を歩く。 ビルの屋上のしっかりとしたコンクリートの上を歩く。 屋上だ。 もちろんコンクリートと空の境界がある。 私はその境界を無視して歩いた。 つまり、私はコンクリートから歩くように飛び降りたのだ。 「疲れた」 私はそうつぶやいた。 それこそが私の遺言だ。 私はこの気持ち悪い人間の中で暮らしていくことに、疲れてしまったのだ。
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