120人が本棚に入れています
本棚に追加
そのターゲットは、私だった。
希美ちゃんを守れなかった絶望とイジメの恐怖から、私は学校に行けなくなった。
しかし、それは少しの間だけだった。
私の両親は、私が引きこもることを良しと思わなかったのだ。
学校に行けない私は罵倒され、車で学校まで連れて行かれた。
彼らは自らの子供が引きこもりになるなんて恥ずかしいと言った。
結局、私の両親は私の辛さを押しつぶして、自らの世間体を取った。
人間は自分のことしか考えていないんだ。
そう理解してしまった私は、ひどく人間の放つにおいに敏感になってしまった。
このガスマスクをしていないと吐いてしまうほどに、敏感になってしまった。
一度、周りに人間がいない時にこのマスクを外そうとした。
そうすれば、においは気にならないだろうと思った。
しかし、ダメだった。
私の周りから人間が消える状況なんてありえないんだ。
私は、私自身が人間なのだから。
私はビルの前に立った。
都合よく廃墟となっていた5階建てのビルがあったから、そのビルの階段を上っていった。
屋上までたどり着いた私は、歩みを止めない。
ビルの屋上を歩く。
ビルの屋上のしっかりとしたコンクリートの上を歩く。
屋上だ。
もちろんコンクリートと空の境界がある。
私はその境界を無視して歩いた。
つまり、私はコンクリートから歩くように飛び降りたのだ。
「疲れた」
私はそうつぶやいた。
それこそが私の遺言だ。
私はこの気持ち悪い人間の中で暮らしていくことに、疲れてしまったのだ。
最初のコメントを投稿しよう!