鏡よ鏡よ鏡さん

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 もちろん、私の美貌が損なわないようにお肌の手入れもしてくれるし、毎日髪の毛をとかしてくれるし、たまにはお風呂でシャンプーもしてくれる。何もかも、ママに頼らなくてはならないので、いつも申し訳なく思う。一日でも早く動けるようにならなくては。私が病院に入院している時に、すでに自分の体が動かないことを知ったので、せめてベッドの横には、鏡を置いて、ずっと見ていたいとママに伝えたら、退院してみると、私の部屋には大きな鏡台が置いてあった。私は嬉しかったけど、鏡台の色が金色というのはいただけないなと思った。でも、ママが私のために買ってくれたものだから、文句は言えないけどね。  今日は午後から、担任の先生がお見舞いに来てくれた。優しい百合子先生。今日は花音のために、ありがとう。ママは、私のために、バラの匂いのするお香を焚いてくれる。先生は、何故か私に背を向けて、鏡台の前に座り、バラの香りのお香を嗅いでいるようだった。そして、ママに何事か言い、なんだか泣いているようだった。  百合子先生は、きっと動けなくなった私を不憫に思って泣いてるんだわ。ごめんね、先生。心配かけて。いつか元気になって、学校に行くから、それまで待っててね。私が先生にそう問いかけると、ベッドの方を見て、何故か先生は体がビクンとして、顔が引きつってママのほうを見た。ママはニッコリとして、花音に声をかけてやってくださいね、と言うと、先生は何故かキョトンとした顔をして、私に何事かモゴモゴと言ったような気がした。そして、逃げるようにそそくさと帰って行ったのだ。  私は不安になって、ママに尋ねた。 ねえ、ママ。私、変な顔なのかな。先生、何だか驚いた顔してたみたいなんだけど。 「花音は綺麗よ。ほら、見てごらん。」 そう言うと、ママが縦になっていた鏡を後ろ手に横にして私の姿を映してくれた。 本当だ。前とぜんぜん変わってないや。なのに、百合子先生は何にそんなに驚いたのだろう。 細かいことはどうでもいいか。私は百合子先生がお見舞いに来てくれただけでも幸せな気分になった。
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