f.2044年

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「ぐ……ぅっ……!」  顔面を蹴り飛ばされ仰向けに転がった俺の顔前にナイフが突きつけられる。脅されている。だが、今更そんなことで動揺する俺ではない。そんなものはもう高校時代に経験済みだ。両手首には手枷、両足首には足枷がはめられ、行動の自由を制限されているのは久しぶりだが。  わざと動揺した様子を見せれば黒いスーツを着た屈強な男達は下卑た笑みを見せ俺の右腕を掴み上げ「てめぇの名前と所属組織、雇い主の名を教えれば解放してやるよ」と耳元で囁いた。耳元に嫌悪感が残る。だが、所詮それだけだ。 「……」 「だんまりか? 見上げた忠誠心だな、ワンちゃん」  その声とともに手枷を嵌められて自由がきかない右腕にナイフが突き刺さる。一瞬息が止まり痛みに耐えるように歯を食いしばった。グリップをねじ込むように押されるたびに焼けるような痛みが走り声をあげそうになるのを堪える。床にダラダラと鮮血が垂れ、床に血溜まりを作った。 「言わねえんなら、俺らの玩具になってくれてもいいんだぜ?」  は、映画の見すぎかよ。そう言うのはもう少し美青年の役割だろ。と適材が親友にいることを思い出して「馬鹿馬鹿しい」と思わず声が出た。  その瞬間、シャツのボタンを引きちぎらんばかりに胸倉を掴みあげられ、無理矢理立たされる。どうやら自分のことを言われたと思ったらしい。俺としてはそんなことを考える自虐のつもりで出た言葉だったんだが、さすがに信じてはもらえないだろう。怒りで赤く顔を紅潮させた大男は力任せに俺の右頬を殴りつけ、間髪入れずにノーガードの鳩尾に鋭い蹴りが入った。  食いしばった口が開き声が漏れた。しばらく激痛は続き、鳩尾を庇うこともできないまま無様に床へと転がる。  もちろん痛みが引くのを待ってくれるわけはなく、眼前に迫ってきた蹴りをなすすべなく受けるしかなかった。右目に激しい痛みが走りぷつりと視界が急激に狭くなる。目の前が赤く染まり、ポタポタと自分の顔から血が流れているのと、靴底に仕込まれたスパイクが目に入った。それと同時に後頭部を固いもので殴られたような衝撃が襲う。  そのまま、ぐらりと視界が揺れて目を開けていられなくなる。ああ、どうやら俺はここで死ぬらしい。
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