f.2044年

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◆ 「こいつ全然口を割らねえ! もう使い物にならねえってのによ、雇い主に捨てられるのがオチだぜ……」  そんな声で意識が戻ってきた。俺は何をしていたのだろうか。体がひどく痛む。気絶していた? おいおい呑気だな、と自分の状況に自分で笑みが漏れた。こんなところ、遥や浅間氏に見られたら爆笑どころではない。  霞む視界で男を捉える。既に着ていたスーツはボロボロになっており、自分の肌にミミズ腫れと血の跡が滲んでいるのがわかる。右肩から下があるべき場所になく、その部位は一応止血されており、自分が生かされていることがわかった。どうやらショックか何かで記憶が抜け落ちているらしい。そんな状態でもしっかり目は開いていて口を閉ざしていた自分に感服する。まったく記憶にないがさすが俺、と言いたいが少し自分でも怖くなった。 「右目を潰して、片腕を切り落としても口を割らねえ、いや、口を割らねえどころか声すら――」  男がどこかと連絡を取っていたのだろうか。その声が突然やみ、汚らしい悲鳴とガラスが割れるような耳をつんざく音。ああ、あの人だ。また迷惑をかけてしまった。とため息を吐く。 「おい! 生きて、」  息を飲む音が聞こえた。まったく、生きてますよちゃんと。ねえ浅間氏、俺ちゃんと口割らなかったんですから。組織のことも、自分のことも、全て。 「秋山! おい、鳶坂手を貸せ!」  遠ざかる意識の中、そんな声だけが耳に残った。
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