夢の淵

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その奇妙な店は、何処に存在したのか定かではない。 私個人の好みの主観で告げるのならば、それは次元の狭間、空間のあわい、夢と現実の狭間なのだろうと考える。 目を開いた時、否、意識が夢中に目覚めた時か。最初に見たものは白熱した光の奔流、引き伸ばされ歪み砕け散って行く途方もない質量、痛みさえ覚える凄まじいまでの熱量。 それら全てが重力崩壊の流れに取り込まれ、中心に向かって足掻らう術も無く順繰りに飲み込まれて行く様子だった。 暗黒の宇宙空間に浮かぶ北斗七星が描く柄杓の形と、ダイナミックな光景が同時に眺められる事象の畔に立つ私の背後には、何時の間にかその奇妙な店が在った。 現実には有り得ないであろう、何処か歪み狂った角度を有する不吉な建物。 足元を流れる暗黒よりもなお黒い蟠りを捕らえた室内には何が有ると言うのか、視界を遮るカーテンも無いのに透き通っている筈のガラス扉の内に何も見えない。 それなのに、時折その黒々とした蟠りの中に、得体の知れぬ姿が朧に浮かんでは隠れる。 ゆるりと蠢き胎動する漆黒の陰影。 炎の様に渦巻く吐息の形が妖しく手招きする腕に変わった瞬間に、猫の頭部を有した女の一糸纏わぬ肢体が艶かしく寝返りを打って気だるげに闇へと消えて行く。
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