夢の淵

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臀部の尾てい骨から生える、長く優美な尻尾が印象に残った。 入るべきか、止めるべきか。 此処が夢なのだと私には分かっている。 明晰夢と言う奴だ。 通常の概念に支配されない世界だが、同時に覚醒した部分が歪にのさばる夢の世界。 だがこれ以上論理的に考えれば、この夢からの目覚めを私は余儀なくされる。 それでは面白くない。 折角、夢を夢と意識しながら見ていられるのだ。 この特殊な状況を楽しむべきだろう。 本来の快楽主義な思考が勝ったか、私の手はドアノブを握って扉を押し開いていた。 「入りなさい」 扉の内側は、至って普通の家屋に思えた。 但し、誰も居ないのに設置された棚や椅子、机のそこかしこから奇妙に視線を感じる。 声の主も不在の中、私は唯一机の上にあった歪な形の手綱を手に取った。 威厳ある声だけが、私を受け入れ招く。 「こちらへ」の声に促され、私は店の奥に在る菌糸が折り重なり、一つの織物として存在する様なカーテンを潜った。
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