長寿の国

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その国に暮らす人々はみな、天寿を全うして死ぬのだという。 心身共に健康でいることを、国全体で推奨するのだそうだ。 その国に属する人間は口々に言った。「わたしたちは幸せだ」と。  国境検問所での入国手続きは滞りなく進んだ。 旅券の確認と自分の身分の証明、入国の目的等を軽く話す程度の簡単な内容だ。検問所の青年は特に俺を怪しむような素振りを見せることもなく、寧ろ歓迎の眼差しを向けているようだった。 この検問所は二人で仕事を回しているのか目の前にいる青年が働いている間、もう一人の検問員は奥の部屋で休憩しているようだった。奥は休憩室のようで、そこから微かに音が漏れている。一昔前のポップスのような懐かしさを印象付ける不思議な音楽だった。 「長寿の国、というだけあって健康的な顔つきをしているんだな」と、俺は言った。 「当然です。国民はみな、毎日健康的な食事、運動、休息をとっています。身も心も健やかな生活を続けていくことが、長生きの秘訣ですから」 「なるほどな。医療技術が発達しているわけではなく、そもそも病気にならないような生活を薦めているのか」 「それだけではありません。我が国は医療の分野に於いても、他国と連携をとって多くの技術者を排出しています。万が一病気になったとしても、我が国の医療機関は進んだ技術を以って患者の病を治してしまうでしょう」  青年は誇らしげに語ると、預かっていた旅券を返却する。そこには入国を認める印章が押されていた。 「では、楽しんでいってください」 そう言って、検問所の青年は笑顔で俺を見送った。
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