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どうしようもなく、消えたくなって。
あたまの1番高い所から、あしの1番低い所から、
ミクロのレベルで徐々に分解されていく。
そういう感覚に陥ることが、たまにあった。
市販されている絵の具のような、美しい青空だった。
想像出来ないほど巨大な飛行機が残したかのような大きく長い雲が、
まるで世界を2つに分断するかのように、ただひたすらに流れていた。
日差しが降り注ぐ中、僕は必死に自転車を走らせていた。
額から流れ落ちた汗を拭うと、勢いよく空中に舞い、
プリズムのように輝きを発する。
川の側で遊ぶ子供の声だとか、
久々に会った仲間達と楽しむバーベキューだとか。
ベランダで洗濯物を叩く主婦だとか、
沢山の夢と希望を乗せて飛んでいる飛行機の音だとか。
・・・・そういうもの達を、蝉時雨は消し去る。
だから僕は夏が好きなのだ。
この河川敷も、いつか彼女と来たことがある。
何をしたのかは覚えていない。
いや、覚えてなくていいのだ。
彼女と居た記憶さえあれば、ただそれでいい。
ミクロレベルの分解が、ついに、
心の奥深くの場所にまで及んだ。
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