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これも覚えている、助けに来たこの落間は最初に時間を操作した時の落間だ。
あの時、何も起こらないことを確認する為、橋の下までやって来て、そして水しぶきが上がったため助けに入ったのだ。
「あんた、上から落ちたんじゃないだろうな」
助けた落間はイヤな予感がした。歴史を改変する為にこの日時に来た。それなのにまさか変わっていないなんて事はないよな。
しかし突き落としてしまったのは女性だったはず、その時の光景は今でも鮮明に覚えている、間違いなく老人ではなかった。
「いや、川辺から落ちたんだ、足を滑らせて」
老人は嗄(シワガ)れた声を漏らす。
「あんたホームレスか?」
その老人の姿は非常にみすぼらしく、まともな生活をしているようには見えない。
落間は何を思ったか川辺に放置していたカバンから封筒を取り出し中身を確認した。一二〇万円、借金返済に六〇万引いて残りは六〇万。
落間は三〇万円を抜き取り老人の手に押し付ける。
「これでうまいもんでも食いな」
これは落間の罪滅ぼしだったのかもしれない。目の前の老人が自分とは無関係の人物だとしても、この川に落ちていた事が何かの縁だ。
老人は何も発せず、ただお札を握りしめた。
四〇日程が過ぎた。
落間は住み処を変えあまり繁盛していない飲食店で店内をモップ掛けしている。
懐中時計は橋から落ちた時に水中に落としてしまったようで今はもう刻を遡ることはできない。
テレビでは橋の下の川の水死体が酔っ払ったホームレスが足を滑らせ落ちたものと放送していた。
結局自分とは全く無関係の事件で早とちりしていたわけだ。
ヤミ金融にはお金を返した、あれだけ派手に暴れたのだから直接会うと何をされるか分からないのでお金は郵送の形をとった。お詫びの一文を書いた手紙も入れたし、かなり上乗せしているからもう追っては来ないだろう。その額六〇〇万。
この一ヶ月自分が覚えている限りの博打で手元の三〇万円から増やしたものだ。
勿論この先はその如何様は使えない。
今はもう博打は止めた。こつこつでもちゃんと働き生きていこうと決めたのだ。
落間はキレイになった床を確認し来店した客を持て成した。
完
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