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その奇妙な店は、奇妙な街の一角にひっそりと佇んでいた。
薄暗い店内、古びた木造で出来た建物に無造作に置かれた棚もこれまた木造で出来ており、得体の知れない品が並ぶ。
その奇妙な店に不気味な男が来店する。憔悴した顔からは焦りの表情も窺(ウカガ)え、今宵もまたこの奇妙な店に悩みを抱えた人物が誘われたようだ。
「ここは何でも売っていると聞いたが、どんなモノがある」
客の男が訊ねると薄暗い店内でもまだ明かりがあると思われるカウンターで、この奇妙な店のオーナーである初老の男性が無表情のまま客の男を見つめた。
「何でもお売りします。」
「何でもって言っても限度があるだろう、どんなモノがあるんだ」
「いいえ、何でも、あなたのお望みの品をお売りします。」
客の男は半信半疑のようだ。
「じゃあ… 人殺しの道具でもあるのか」
「ありますよ」
オーナーはカウンター背後の一際明かりのない暗闇へと姿を消し、くしゃくしゃになった茶色の紙袋を持ってすぐにまた明かりの下へと戻ってくる。
年代物でも入っているのかやけに古そうな袋から中の物を取り出すと客の男は一瞬たじろいだが、それはすぐに失笑へと変わった。
「なにがなんでもだ、確かにこんなモノを平然と取り出してくる辺り、普通じゃないが、なんでもは誇張しすぎだ」
客の男はテーブルに置かれた拳銃が本物かどうかも確認することなく、片付けるように指示をした。
「まったくどうかしてたぜ、普通じゃあり得ないモノ、そんなモノを期待してここへ来たっていうのに、出てくるのが拳銃かよ」
オーナーは顔色一つ変えることはなく、拳銃を袋に戻し、また男を見据えた。
「あなたが何を望んでいるのか、仰って頂かなければお出しすることが出来ません。」
客の男は苛々するように僅かなスペースでうろうろし始める。
「難しいな、なんというか、無かったことに出来るモノ、いや過去の出来事をやり直せたら」
「時間旅行をお望みですか」
客の男の足が止まる。
「そんなモノあるわけないだろ」
「ありますよ。」
オーナーは再び暗闇の中に飲み込まれる。
そして、今度は先ほどと違いまだ比較的新しそうで両手で収まる程度の紙質の白い箱を持って現れた。
白い箱を開けると中には更に紺色の箱が入っており、例えるならそれは大きめの指輪ケースである。
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