あなたのお望みの品をお売りします。

5/11
0人が本棚に入れています
本棚に追加
/11ページ
「いらっしゃい、お早いお戻りで」 イヤな事務所からようやく解放されたからなのか、ここまで来るのに小走りで来たせいか、久々の大金を持っているからか、それとも未知なるアイテムを手に入れんとする興奮か、落間の鼓動は迅速に脈打つ。 「さっきの懐中時計を」 落間は札束を置いて、ついに懐中時計を手に入れる。 「お買い上げありがとうございます。」 店を出て落間は早速懐中時計を使ってみた。やるべき事は分かっている、時間を三日前に戻す、それにより落間の三日間はリセットされ、そこから新しい三日間を再度作ることになる。そうすれば必然的にヤミ金での借金も無かったことになるわけだ。 落間は“日”の竜頭を三回まわすと世界はとてつもない速さで逆流し始める。日は西から上り東へ沈み、昼と夜が世話しなく入れ替わる。そうした行程が三度行われ世界は再び元の刻を刻み始める。 今は三日前の午後二三時、もうじき俺はとんでもないことを仕出かす。それを改変するためにここへ来た。 だがもう心配はない、俺が何も仕出かさなければいいだけのこと。 落間は歩を進めた。行き先は三〇分程歩いた所にある大橋、そこで問題を起こすのだが流石に同じ場所まで行くのは憚られるので橋の下から覗くだけにした。 橋の下に流れる川は穏やかではあるが深そう、そして見上げた先の高い位置には橋がある。あんな所から落ちたらどうなってしまうのだろう。女性が落ちていく様が頭に浮かんだ。 よせ、縁起でもない。 落間はそこから立ち去ろうとしたが背後で水しぶきが上がった気がした。気のせいか? 日も上り、銀行が開いた時間を見計らい落間は中へ駆け込んだ。見事なまでに借金をしている、その額六〇万円。 ヤミ金の分は消えてもこちらは随分以前からのモノだから三日戻した程度では消えない。誰かが返済を肩代わりするようだが、見知らぬヤツに借りを作ると後が怖いのでその前に返済しようと思い立ったのだ。 ヤミ金からお金を多めに頂戴したのはこれが狙いでもある。借金は返済し残りは三〇万円か、思わぬ出費もあったがこれだけあれば増やすことも可能だ。 落間には策略があった。時間を操作すれば博打で負けることがないのだ。 まずは手っ取り早く落間は競馬場へ赴いた。初めて来る場所ではない。これまでにも何度か来たが馬を見極める目がなく勝率は低い、借金の大半はこういった博打関係だ。
/11ページ

最初のコメントを投稿しよう!