あなたのお望みの品をお売りします。

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まずは勝ち馬を確認するとしよう。 少し遅かったようで既にレースは始まっていたけれど結果さえ分かればレース開始前に戻るのは造作もないこと。 「あのぉ~」 まったくレースの最中だというのに声を掛けられ苛立ち紛れで振り返る。 そこには腰の曲がった老人が立っていた。 「先程はありがとうございます。何のお礼も出来ませんがよかったらこれでもどうぞ」 老人が差し出したのはおはぎだ。受け取りながらも一体何のことを言っているか分からない。ボケているのかこの老人は。 その時会場の歓声が一層高まりレースが正念場を迎えているようだ。 落間が目星をつけていた馬は五着でゴール、酷いものだ。まともに賭けていたら大損していたことだろう。 やはり馬を見極める目は持ち合わせていないが勝ち馬は確かにこの目で確認させて貰った。 落間は物陰に隠れ懐中時計の時刻の竜頭を少し回し、時間はレース開始前に戻される。 さて、馬券を買いにいこうか。そう思い物陰から出た瞬間、目の前に先程おはぎをくれた老人が苦しそうに膝をついている。 「どうした?」 老人は苦しそうにしながらも落ちているカバンを指差す。 「くっクスリ」 「クスリ?持病持ちか」 落間はカバンを拾い上げ中を適当に漁るが色んな種類のクスリが無造作に放り込まれ、どれだか分からない。指示されたクスリを老人に与えると楽になったようで老人は床に座り込んだ。 救急車… までは呼ばなくても大丈夫か。 そうこうしている内に馬券を買う時間が無くなっていく、落間は小走りで投票券の発売所まで向かった。有り金を全て叩いて勝つと分かっている馬券を購入する。あとは結果を待つだけ、さてレースを見ながら先程老人から貰ったおはぎでも頂くとしよう。 落間はこの日、先の二〇〇万が霞む程の大金を手に入れ人生の勝ちを確信した。これまで借金に追われる毎日だったのが、これからは金が金を生む生活だ。 この懐中時計がある限りお金に困ることは二度とない、一生遊んで暮らせる。 それからというもの落間の金遣いは途端に荒くなった。あらゆる博打で荒稼ぎし湯水のごとく散財する。 それゆえ貯金としてはあまりなく、財布のお金が減れば増やすという、そんな生活を一ヶ月程繰り返した。 とある日コンビニで昼食を買ってまだボロ目のアパートのまま住み続けていた落間は帰るなり異変に気付く。
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