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それなのに彼らは俺の名も借金についても言及した。あまつさえ腕の怪我なんて、いよいよ知りもしない。
「こいつもよぉ、揉め事にはしたくないんだとよ、穏便に行こう、返済に五〇万上乗せで手を打ってくれないか」
横暴言いやがって、だがいいさ、こっちには簡単にお金を増やせるアイテムがあるんだ。五〇万位の上乗せ払ってやる。
「分かりました。では二五〇万」
「違うだろ、忘れたのか?契約では返済時に倍にして返すこと、期限を過ぎたら利子が発生すること、それに五〇万プラスで
あんたの返済金額は四九〇万だ」
「そんなっ」
契約時に、どうせこの歴史はかき消せると思い契約内容を確認しなかった。まさか倍返しに利子もここまで法外だとは予想だにしない。
「分かりました。一週間で、いや三日で必ずお支払します。」
「そうは言ってもな、既に期限は切れてるんだ。一銭も支払わずには返せないな」
落間は財布を取り出した。数千円ならあったはず、しかし彼らの目は別の所に向いた。
懐からこぼれ落ちた懐中時計を優男はひょいとつまみ上げる。
「これ高そうじゃないか」
「あっ待って下さい。それはダメです。」
「そんな高いものなのか」
「お金はお支払します。ですからそれだけは」
落間の悲痛な叫びに、だが優男は聞く耳を持たない。
落間は自分でも驚く行動に出た。優男に飛びかかり懐中時計を奪い返したのだ。そしてすかさず時刻の竜頭を回す。
一瞬にして借金取りは姿を消す。
助かった、けれどまだ事務所の中だ。
扉の向こうで話し声が聞こえて落間はすかさず事務机に身を隠すと同時に扉が開く音がした。
入って来たのは怪我を装っていた強面の男と他数人、それほど時間は戻していないが強面の男は包帯を巻いていない。やはり虚言だったか。
男達はずかずかと奥までやって来る。このままでは見付かってしまう。
落間は意を決して近付いてきた男達にタックルをかますと先頭にいた強面の男は転んで左手を脚の低いガラステーブルにぶつけた。
落間は立ち止まらず出口まで一気に駆け抜け、外に出てからも尚も走り続けた。
家に着くなり落間は逃げる準備を始める。この時点ではまだ空き巣は入っていないようでカバンにお気に入りの服と僅かばかりのお金を詰め込み、最早戻って来る事もないだろうと鍵も掛けずに部屋を後にした。
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