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その奇妙な店は、 まるでそこだけ時代に取り残されたように、 まるでそこだけ時代劇映画のセットのように、 まるでそこだけ異空間のように、 異様な静けさの中に浮かんで見えた。 まるで江戸時代にタイムスリップしたような、 木造のこじんまりとしとた店構え。 薄暗くなった背景の中、 ぼんやりと格子窓からやわらかい明かりが漏れている。 看板がある訳でもないし、 ただ、本当にただ何となく、 そのやわらかい明かりに誘われて、 窓から、その内側を覗いてみた。 部屋の奥には、腰の高さくらいの棚にズラッと壺が並んでいた。 壺にはすべて蓋が付いていて、 色は、多少の濃淡はあれど、どれも黒っぽかった。 大きさも大小さまざまで、並び方には、規則正しさは感じられなかった。 何もない部屋の奥に横一列に並んだ壺に、 異様さを感じながらも、何故か興味をそそられた。 「何?あれ…」 そう言葉が漏れたのが聞こえたかのように、 部屋の奥の暖簾をくぐり、一人の男性が出てきた。 その男性はうっすらと感情のこもっていない笑顔を浮かべて、 格子窓の隙間から覗いている私を見つめている。 あたたかい笑顔でもなく、 歓迎してくれている笑顔でもなく、 だからと言って悪意を感じられる訳でもなく… そう…その男性の笑顔からは何の感情も読み取れなかった。 だからなのか、少し怖いような感情が込み上げてきた。 (このまま逃げてしまおうか…?) そう思ってるはずなのに、何故かその場から離れられない。 感情は危険にも似たようなものを察知してるはずなのに、 身体が…ううん、魂がどうしても引き寄せられてしまうような感覚だ。 ゆっくりと男性が入り口に近づいてきて、 その何の感情も読み取れない笑顔のまま、 「どうぞ、お待ちしておりました。」 と、入り口を開けて入るように促してくれたのだ。 感情とは裏腹に、逆らえない私の身体は、 そのまま、その部屋に足を踏み入れてしまった。
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