左から三番目の壺

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男性は、私を部屋の奥へ進むよう促すように、 右手を前方に向けながら壺が並んだ棚へと足を進めた。 そして、振り返ると、 「そろそろいらっしゃる頃だと思っていたんですよ。」 と言って、両手を体の前で重ねた。 とても優しい口調なのに、 やっぱり、その笑顔からは何の感情も読み取れない。 そう。何を考えてるのかわからない感じだ。 でも、待ってたってどういう事だろう? 「あの…待ってたって…?」 私がそう聞くと、 「あなたは、この壺の中身を見たくて来たのでしょう? どうぞ。これは、あなたの壺です。 あ、その前に、一つ約束して下さい。 この壺を開けたあと、私がいいと言うまでは、 声を出したり、壺の中のものに触れたりしないで下さいね。 その約束を守って頂けるのでしたら、どうぞ。」 と言った。 「もし、約束を守らなければ…?」 「その時は、あなたの人生が変わってしまいます。 あ、でも、大丈夫。 映画でも見るように、ただ黙って見てるだけでいいんです。 まぁ、出来る限り私も注意しておりますので大丈夫ですよ。 さぁ、どうしますか??」 私は、もう何かに引き寄せられて逆らえないくらい、 自分の意思とは裏腹に頷いていた。 その様子を見て、男性は、一段と口角を上げて微笑み、 「さぁ、心ゆくまで!!」 と言った、その笑顔を見た瞬間、 私は壺の蓋に手を延ばした。 それは、左から3番目の、中くらいの大きさの壺。 コトコト、コトコトと揺れて、 私を誘ってるように見えたのだ。 そして、蓋の中身を覗き込んで、真っ暗な中身を見た途端に、 キーンと耳鳴りと眩暈に襲われた。 何が何だかわからない中、一瞬振り返った先に男性の笑顔が見えた。 (あの笑顔、何かに似てる…何だろう…? …!!!ピエロだ!!!) そう思ったのと同時に、私の意識は黒い世界に消えていった。
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