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本鈴が鳴って、先生の気配がすると、生徒達はこぞって席に着く。
案の定、数秒後に担任の鹿取(かとり)が、紫のハイヒールをカツカツ鳴らして、教室に入って来た。
「グッモーニン!エブリワン!」
鹿取は、英語の担当なので、毎日、朝はこのような挨拶から始まる。
年齢は……30代後半から40代前半といった所か。
本人曰く『永遠の17歳』らしいので、気持ちはクラスの全員と同い年という事だと、生徒達は理解していた。
「ええ、今日は皆さんにビッグニュースがありまーす!なんと、ニューメンバーが我がC組に入る事になりました!はい、拍手でお出迎えー!君!入ってらっしゃい!」
鹿取がパンパンと、派手に手を打ち鳴らしながら、早口で捲し立てるので、生徒達は戸惑いながら、手を叩く。よって、拍手はまばらになり、外で待たされていたであろう生徒が、気まずくなりそうな歓迎の仕方の出来上がり。
だが、入ってきた本人は、涼しい顔で、何を気にしている風も、それどころか、当然あるだろう緊張の気配すらもなかった。
だから、恐らく、誰かが息を呑んだのも。
拍手がピタリとひとりでに止んでしまった事にも、気付いてはいないだろう。
「はい、じゃ、自己紹介してくれる?」
前髪に掛かる、漆黒の髪。
耀と同じ位か、少し低い位の背の高さ。
切れ長のシュッとした目は、どことなく冷たく見えた。
「多々羅 牙玖 (たたら がく)です。よろしくお願いします。」
僅かに下げた頭から、真っ直ぐな髪がサラ、と揺れて。
青っぽい烏(からす)みたいなその色は、染色した黒だと、与は思った。
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