一片

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「知代……おはよう。」 長いポニーテールを揺らし、息を弾ませてきた知代に、与はにこりと笑い掛ける。 「おはようー!与!お願いっ!今日の歴史のレポート写させて!」 「えっ、またぁ?」 与は笑いを引っ込ませて、頬を軽く膨らます。 周囲には、同級生や先輩、後輩が多く居る。 お抱え運転手付きの高級車で登校する者、与や知代の様に、電車や徒歩、自転車で登校する者、大体半々の割合だ。 「ねっ、今日の部活の帰り、アイス奢るからぁー」 「いや、アイス寒いし、嬉しくないし。」 与と知代がそんなやりとりをしていると。 「耀(あかる)先輩だっ!」 黄色い声と、浮き足立つ周囲。 慣れている二人は、顔を見合わせるものの、振り向きすらしない。 「耀先輩、おはようございますっ!」 「おはよう。今日もかわいいね。」 「っきゃーーーー!そんなーー!!!」 ーーまたやってるよ… 胸中で、うんざりするものを感じながら、与は歩を早める。 「あっ、待って!与!」 「!……ばか。」 知代がそれについてこようとして、与の名前を大きな声で呼んだ為に、与は瞬時に知代を責めて、知代はしまったという顔をした。 しかし、時既に遅し。 「与?ーー与!」 殆どの生徒が両脇に寄って道を空けているから、銀杏並木ロードの真ん中を歩くのは、耀と与、そして知代だけ。 背後から、肩を叩かれて、与も振り返らざるを得なくなった。 振り返った先に、満面の笑みを浮かべる、スーパーセレブ高校生、耀 曜 (あかる ひかり)。 182cmの長身。 イングリッシュコッカースパニエルのようなタンの色をした、緩いウェーブのかかる髪(染めているという説も地毛という説もあるが、真相は定かではない)。 その小さな顔は、髪と同色の瞳と、すっと通った鼻梁、薄い唇によって、整い過ぎている。 道を歩いているだけで、彼を見た誰もが一度は惚れると噂される美貌の持ち主。 そして。 「おはよう、与。今日も一段と美しいね。」 女なら誰彼構わず、平気で愛を囁く男、だ。
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