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耀が与の前に回って手を掬い、その指先にキスを落とすーー
「バカじゃないの。行こう、知代。」
「えっ、あっ、与!」
ーー前に、与はそれを払い退け、耀を通り越して、歩き出し、慌てて知代が後を追う。
「本当の事なのに。小嶺も今日もかわいいよ。」
「あ、ありがとうっ!っと、ごめんねっ。待って、与!」
瞬時に顔を赤くさせた知代と与の背中を見ながら、虚しく痛む手をひらひらさせる耀。
だが、その表情に落胆した様子はなく、むしろ面白がってるように見える。
容姿端麗、スポーツ万能、成績優秀、金あり地位あり名誉あり、性格も社交的で優しい耀は、櫻杜学園だけでなく、他校からも不動の人気を誇っているが、こうした余裕綽々な態度が、与の鼻に付く。
「与ってばぁ、耀君にあんな態度とって良いのー?」
「何言ってんのよ。親切心だけで応じてたら、あいつの親衛隊に何されるか分かったもんじゃないんだから。ちょっとは人の迷惑考えろってんのよ。」
ずんずん前を行く与は、心配する知代に、前を向いたまま答えた。
耀は櫻杜学園の理事長の孫で、初等部からここに通っているらしい。今年のクラス替えで高校受験組の与と知代は同じクラスになった。
それだけでも、取り巻きの風当たりはきつい。親衛隊は目を光らせて、見張っている。なのに、女子一人一人にあの調子で、本当にいい迷惑なのだ。特に与には馴れ馴れしい気がする。
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