一重咲のソムニフェルム

三片

昨日知代からはどうしたのと連絡があった。
学校から家に電話が入らなかったのは、赤尾が担任に、与は体調不良で帰ったと伝えたからのようだった。

知代に本当の事を言うか迷ったが、これ以上事を荒立てたくはないし、赤尾達にハメられたと分かった所で、与達に打つ手はない。

解決策はただ一つ、今まで通り、息を潜めて、というか、耀に関わらないで生活していくことだけなのだ。

そしてそれは恐らく成功するだろう。

だから知代には、本当に体調不良で早退したのだと返信した。

駅までの道のりを歩きながら、与は鞄の中のマスクケースをチェックする。

――今から着けておこう。

マスクを着けていれば、なんとなく、人との会話を拒めそうな気がした。
あの嫌な香りだけでなく、耀もその取り巻きも完全にシャットアウト。
その為にマスクの存在は心強かった。