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「おはよう」
にこと微笑んで、挨拶するだけで、周囲から歓声が上がる人間等、今迄会ったことがない。
ーー阿呆らし……
与は、教室の前から入ってきた耀と対角線上に位置する、窓際の一番後ろの席で、この現象から目を反らした。
因みに、耀の席は廊下側の真ん中だ。
「ねぇ!聞いて聞いて!」
予鈴が鳴ったと同時にバタバタと教室に走りこんできた同じクラスの女子が、興奮した様子で騒ぐので、教室中の視線がそこに注がれた。
「うちのクラスに転入生が来るんだって!」
季節外れの転入生は珍しい。
少なくとも与が入学してからは、聞いたことがない。
更にこの学園では、初等部か中等部から上がってきた生徒が多くを占めており、高校から受験する人間は殆ど採らない。故に倍率も非常に高い。
「男?女?」
「どこから?」
「どういう事情?」
様々な質問が飛び交うが、情報の持ち主は転入生が来る、という事以外は知らなかったようで、狼狽えている。
「ね、ね、女の子きたらいいね。」
騒つく教室内で、前の席の知代が振り返ってそう言った。
「うん、そうだねー」
そう返事をしながら、教室の入り口に目をやった際、視界の端に映った耀の表情がいつもと少し違う気がして、与は違和感を感じた。
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