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2.
「そんな電話があったの?!」
と、桐子は、ただでさえ目の周りを黒く縁取ってでかく見せている両目を、さらに大きく見開き、舞香を自分の部屋へと手招いた。
桐子いわく「ぜんぜん古くない偽物」だという白いアンティーク風家具の上に乱雑に置かれたギャグ漫画とオカルト関係の本…いつもならその本のおどろおどろしい表紙に少し怖気づく舞香だったが、今日は何故かその光景を目にしてほっとしていた。自分の借りる部屋のすぐ下の階がいわゆる事故物件だという物騒な事実を聞かされても、この栗原マンションに引っ越してきたのは、家賃が格別に安いことも理由だったが、同じ大学に通う先輩である桐子が同じマンション内に住んでいるという理由もあったからだ。
舞香は夜中の電話のことを大家へ伝える前に、大家の姪でもあり自分の部屋のすぐ上の階に住んでいる桐子へ朝一番に伝えに来たのだ。朝を待つ間、ほとんど眠れなかった。
「お邪魔します。桐子先輩、朝からメイク、バッチシですね…」
「そんなことはいいから、アラレちゃん」
桐子が舞香のことを「アラレちゃん」と呼ぶことに舞香はすっかり慣れていた。桐子いわく舞香が「ベースボール・キャップを被 ったら、鳥山明の漫画『Dr.スランプ アラレちゃん』にそっくり」だからだそうだ。
アニメや漫画に疎くその漫画をまったく知らなかった舞香だが、桐子からそのレトロな漫画「アラレちゃん」を見せてもらった時、多少の親近感は持ったものの、黒縁メガネにストレートな長い髪だったら、自分でなくても「アラレちゃん」に似そうなものだ、と感想を述べた。桐子はしかし「目がでかいところも似てる」と言い張るのだった。でかい目と言えば、桐子の両目もでかく見えるが、それは「努力のたまもの」で、舞香の天然のでかさとは違うのだそうだ。まあ、その「アラレちゃん」が、見た目、性格傾向、ともに共通点があまりなさそうな舞香と桐子の仲をとりもってくれたことには、間違いない。
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