肆 かいろうさぎ

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4.かいろうさぎ 雨の中を走って、階段を登った先は開けた空間だった。迫りくる洪水から逃げた先には僕と弟の他にも大勢が身を寄せあっている。そのなかで、一際目につくのはウサギだった。正確にはウサギそのものではない。ウサギのキグルミを着た人間だった。大分着古され白色よりはグレーになりつつあるウサギは僕らを見つけるとにこにこと、いや、表情はもちろん変わらないのだが、体を愉快そうにゆったりとゆらしながら近寄ってきた。 「これを使いたまえ!」 ばしん! 僕は思わず小さな悲鳴をあげる。僕の手のひらに叩きつけるような勢いで押し付けられたのはカイロだった。 「ありがとう、ございます……」 「ふははは、私はアメリカにカイロを広めたウサギだからな!!!!」 ウサギは楽しそうに、大きな声で笑った。 クスクス笑いがその部屋の中に充満した。
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