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「コンクールに……出ないの?」
なんということでしょう。女は肩をすくめてため息をついた。
「ならあなたたちはなんの演奏会を目標としているのかしら」
部長の早川夏海はなにを聞くのか、と不思議そうに首をかしげ、こういい放った。
「演奏会というより、入学式と卒業式でのマーチの演奏くらいしかしませんけど……?」
女は、ロングトーン云々の前に吹奏楽部の精神を正さなくてはならないと心を決めた。
「前言撤回! 全部員部室に五分以内に集合のこと! さあ走れ!」
激を飛ばしたにも関わらず、ノロノロと動くのが校舎の外からも感じられた。
「あの」
「あらどうしたの? 夏海さん」
「吹奏楽部の新しい顧問の先生ですよね」
「ええ」
「あの、お名前伺ってもいいですか」
女はここで初めて気づいた。部のやる気のなさに衝撃を受けすぎて、自分の名前を名乗ってもいなかったことに。
「これは失礼したわね。私の名前は守山桜。桜先生って呼んでね」
夏海は軽く礼をしては、扱いに困るようにぎこちなく三階にある合奏室へと守山を案内した。
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