三月 来訪

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 全員部室に集合して、なにが起こるのかと部員たちは興味半分、怖いもの見たさ半分で新しく顧問になった守山桜を注視した。 「皆さん、まずは自己紹介しましょう。もう誰かから聞いたかもしれないけど、四月から刈山中学校吹奏楽部の顧問になります守山桜です。よろしくお願いしますね。部長さんはさっき聞いたから、そうね、フルートから順に自己紹介していって頂戴」  狭い合奏室に所せましと並べられた椅子に、肩身狭く座る部員たちは、より一層小さくなってぼそぼそと自己紹介していった。 「あっ、先生。フルートのパーリーは私、部長が兼ねてます。じゃあそうね、みーちゃんからお願い。こういってこうね。フルート終わり次第、いつもの順番でいって。そう、次はクラリネットね」  フルートのメンバーは部長傘下ということもありほどほどには真面目で、守山の機嫌を著しく損ねることはなかった。だが、クラリネットが問題だった。 「ちっす! おら船井美花! 遊ぶの大好き、騒ぐの大好きな乙女だよ、よろしくねぇ」  怠け癖のある部員一同すら、ああやっちまったと目をそらし肩をすくめるこの人は、これでもクラリネットのパートリーダー、通称パーリーなのである。  案の定、守山の眉がひくひくと動いた。さらに音楽のエリート教育を受けてきた守山には声を聴いただけでわかっていた。船井美花は極端な肺呼吸をしており、ダイエットでもしているのか体は痩せ型であった。これではろくな音はでまい。  その船井美花に遠慮するように申し訳なさそうな顔で矢継ぎ早にクラリネットの面子が自己紹介を終え、ますます小さくなった。それを一瞥した守山は、言いたい事をぐっとこらえ、次を促した。次はサックスであった。 「水川菊、に、二年、です。よろしくお願いします……」  最後は消え入るかというくらいのか弱い声なのは、さっき部活に遅れてきたあのシャイな女の子だった。  
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