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「健……悪いが個室の扉を開けてくれ」
息も絶え絶えといった掠れた声に、健と呼ばれた生徒は戦慄する。
「待ってろ、今助けるからな!」
焦る余りに押すべき扉を引いてしまい、ガタガタと音を立てては震える手に汗がにじむのを健は感じた。
友人の慌てように不謹慎ながら緊張がほぐれ息が楽になるのを感じとった駿は、少しだけ腰を浮かせて思ったほどふらつかないことを確認し、和式の便所の向こう側に片足を伸ばした。
「よし」
片足の先が向こう側に付いたことを足の指先のわずかな感覚で理解した駿は、ゆっくり立ち上がるとともに重心を徐々に前に移し、なんとか立ち上がることに成功する。
「駿! 開けるぞ!」
健の声とともに勢いよく開け放たれた扉の向こうで、駿は青白い顔ながら柔らかく笑っていた。
「来てくれてありがとう。でもさ、健お前、慌て過ぎだろ」
最悪の事態は避けられたことに安堵する一方、軽く弄ってくる友人に冷ややかな視線を体裁上送る健。
「七尾君、大丈夫?」
向かい合う二人の元に響いたのは、形相を変えて部室を飛び出していく健に気づき後を追ってきた守山の声だった。
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