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七尾駿は病院で点滴を受けていた。
「本当に、すみませんでした」
自分の監督下に生徒が倒れたので、守山は七尾の両親にスーツをきて謝ったが、両親は気にしないでくださいと笑っていた。
「駿は生まれつき身体が弱くて、男の子っぽいスポーツが出来なかったんです。この子は気丈に通院生活を我慢してくれましたが、私たちはこの子が熱心になれる何かを見つけてあげたかったんです」
穏やかな笑みを浮かべる母親の言葉を、父親が継いだ。
「試しに音楽を習わせてみたら、駿は気に入ったらしく、滅多にものを欲しがらないこいつがピアノを欲しがったんです。勿論私はすぐにピアノ屋に向かい良いピアノを用立ててもらいました。それ以来駿は、精力的に練習に励むようになりました。確かに咳き込んで苦しがることも増えましたが、私は駿が生き生きとピアノに向かうのを見て、ピアノを習わせて良かったと心から思いました」
だから、と父親が続ける。
「駿の体調が悪くなる可能性を知っていながら部活を続けさせた私たちにも、監督責任はあります。先生一人が責任を感じなければいけない理由はありません」
守山は顔を上げた。
「ただ……」
父親の穏やかな笑みに、苦渋が混じる。
「駿には部を辞めてもらわなければなりません」
守山は水に打たれたような衝撃を感じた。
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