五月 脱落

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「……え?」  突然話題を変えられ、守山は返答に戸惑う。  そんな守山の心を見透かしたように、駿は笑った。 「すみません、急に。でも、どうせ辞めるなら知りたいんです。あの部に未来があるかどうか」 「……正直に言わせてもらうと、今年のコンクールで金賞は難しいわね。B組にシフトするならともかく」  いつもの調子で辛辣な意見を述べる守山を、少し残念そうに、しかし満足そうに駿は見つめた。 「でもね、七尾くんの言う未来、はあるんじゃないかな」  どういうことだろう、と駿は守山の目を真っ直ぐに見つめた。守山のことを、病人である自分に甘いことを言うような人だと思っていなかったので言葉の真意を試すように駿は守山の次の言葉を待つ。 「初めてこの吹奏楽部を見た時、私は正直絶望した。なんてやる気のない、堕落した部なんだろう、って。でもね、やりようによっては化けるかもしれない、とも思ったの」 「化ける、ですか?」 「ええ。この部には隠れた逸材がいる。彼らを軸にして部の再生を図ろう、と思ってた」 「彼ら、とは誰です?」  駿の問いに、守山はあえて答えない。
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