三月 来訪

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 深夜のゲーセンにたむろする若者たち。  巡回する教師にバレないよう、美花と佐織の二人は公衆便所で持ってきたギャル服に着替え、ご丁寧にシールタイプのタトゥーを顔や腕に貼った。タトゥーは肌を傷つけなければいけないという知識の教師が多く、学校の身装検査でタトゥーがなかったらまずタトゥーしている子は除外される。 「ちっす! 待ったぁ?」 「二人とも、遅いよ! あたしたち、ずっ友でしょ? 友達待たせるなんて許せない」  この子は父親から暴力を受けており、帰る場所が本当にない。それ故か、束縛が強い、被害妄想が強い女の子である。 「まあまあミキ、事情があったんだろうから許してやりなよ」  リーダーのような寛容さでミキと呼ばれた子を宥めるこの子も、清純な優等生風でありながら、家庭が離婚の危機にあり心に寂しさを感じている。 「いやさー。吹部の新しい顧問がめちゃキチでさ、運動部でもないのに筋トレさせんの、あったまきた」 「お陰で足めちゃ痛いんだよね。だから許して、ミキ」  彼女らは本名を名乗らない。名前は彼女らの、思い出したくない日常そのものを付随するから。  美花と佐織は、他の子どもたちと、朝が来るまで遊び尽くした。そして朝早くから働きに出掛ける親が家を出たところを見計らって、節約のため少額しか持ち歩かない親の財布から札を抜き取るのである。
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