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……と、コーヒーがくるまでのあいだに。
「僕、ちょっとトイレに」
僕はいったん席を立つと、『化粧室』のプレートが張られたドアへと近づいた。そうしたら。
「ん?」
トイレのドアのとなりに、同じようなドアがもう一つあった。プレートには『更衣室』とある。はて更衣室? スタッフの着替え用だろうか。それならそれで客から見えないところにありそうだけど。
聞いてみるか、これも。
「先輩、面白いものとか、『予定』って一体なんですか? 予約してまで来るところには思えませんけど……」
僕は用を足し終えると、戻るなり先輩に疑問をぶつけた。隣からはパスタのいい香りが漂い、驚くことに皿はもう半分ほど空になっていた。
「まあまあ。そいつは見てのお楽しみだ。日によっては客が入りきらないことだってあるんだぞ」
「自慢じゃないが、ウチも変わった店だから。コーヒーでも飲みながら見学していくといい。初めての人は特にな」
先輩とマスターとがそろって僕に視線をそそぐ。店内には僕たち以外の客はほとんどいない。テーブル席に女性がひとり、少なくとも今日はそのくらいだ。いまいち説得力がない。
僕は差し出されたコーヒーを口に含みながら、仕方なく待つことにした。
そして、小一時間。
ジリリリリリリリ!!
「うわっ! 何だ!?」
ひと昔前の火災報知器みたいな警報音が、突如店内に鳴り響いた。同時に奥のモニターに光が灯り、映像があらわれる。そこに映っていたのは――。
「か、怪物?」
僕は自分の見たものの意味が分からず唖然とした。これが『予定』?
人間よりも一回りくらい大きなサイズでやけにトゲトゲしていて、廃虫類めいた外観は着ぐるみにしては色や質感がリアルすぎる。口からは謎の光線を吐いて、餌食となった罪なきアスファルトがあわれにも溶けていた。
「おいでなすったな」
古風なセリフ。言うが早いか先輩は席を立ち、例の更衣室の奥へ消えた。数分の間をおいてそのドアの向こうから再び人影が現れたとき、その出で立ちはそれまでの先輩のものとはまるで違っていた。
鮮烈な赤が目にやかましい奇妙な全身服と揃いのヘルメット。なんか子供のときに見たことあるぞコレ。
「何ですか先輩、そのカッコ」
「見りゃわかるだろ。ヒーローだよ」
確かに見て分かってしまった自分が悲しいが、力いっぱい断言されても困る。
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