たたかう喫茶店

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「それともあれか、最近の若いのだともっとこう、ファンタジー的な剣とヨロイの方がしっくりくるか」  まあどちらかといえば宝具や魔剣でお願いしたい――いやそれはどうでもいいのだ。それで一体このコスプレ中年はどうしようというのか。 「とにかく。俺はヒーローとしてあの怪物を倒してくる。後輩、俺のバトルを括目せよォォ!!」 「いや先輩キャラ変わって……おおッ!?」  先輩はひとしきり叫ぶと、僕のつっこみを振り切ってその場から消えた。文字通り消えたのである。信じられないことに。  他に見るものもないのでモニターに目をやると、何とそこには怪物とともにあの赤い衣装の不審人物――先輩が映っていた。 「ああ、ウチの開発したブレスレット型時空転送装置だよ。こう、一瞬で『ヒュン』っと」  空いた口が塞がらないままそこここを指差す僕に、さらりと言ってのけるマスター。時空って。ヒュンッとって。 「ここ、そういう店なんだ。秘密基地っていうのかな。宇宙からの敵に対抗するための隠れ家というか」 「いやいやいや。だからって一般人を巻き込んじゃダメでしょう。普通のサラリーマンですよ、あの人」  その前の前提からおかしい気もするが、とりあえずアスファルトを溶かす程度の怪物を目の当たりにしたのでその辺りは置いておく。 「問題ない。我々の正義の科学力によって開発された衣装はどれも身体能力を驚異的にアップさせる。料理にだって色々盛ってあるし」 「まさかヤバいクスリを……!?」 「はは。大丈夫大丈夫。法には触れてないよ。合法か脱法のどっちかだから」 「全然大丈夫そうじゃなあああいッ!!」  テーブル席の女性はやはり常連なのか、僕のシャウトにも素知らぬ顔で黙々とトーストを食べている。  おかしい。店内で息を荒げている僕が一番まともな人物のはずなのに、ひとりだけ浮いている。そんなバカな。 「お、見てごらん。戦いが始まるぜ」  見れば自称ヒーローは華麗かつ力強い踊るような動作で敵に素早く背後から近付くと、一方的に殴る蹴るの暴行を加えて光線を吐く以外特に何もしていない怪物に瀕死の重傷を負わせた。その間十秒にも満たない。そこは正義の科学力とやらを礼賛すべきなのだろうが。 「よく怒られませんね、この店」
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