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変身のときを見計らったかのように、カウンターの隅の電話が鳴った。アンティーク調のダイヤル式電話だ。
「ウム、みんな出撃……わかった、戦闘を……」
マスターの言葉の節々から察するに、彼の仲間からの電話らしかった。マスター、いやマスターブラックは受話器を置くとカウンターテーブルの下に手を伸ばし、そこにあるらしい隠しスイッチを押した。カチリという硬い音がしたかと思うと床から操縦席と操縦パネルがせり上がり、喫茶店のカウンターが瞬く間に何らかのコックピットのような様相を呈する。席は三つで、マスターブラックは向かって右に座っている。
「な、何が起こっているんだ!?
僕たちの背後が明るくなったのはコックピット出現とほぼ同時だった。カウンター席の僕たちにとっては背後、僕たちと相対する形でカウンター内にいるマスターブラックにとっては正面となる壁だ。
驚いた僕が振り返ると、壁は真ん中で二つに割れ、左右にスライドしていた。それまで白壁だった一面はガラス状の透明な素材へと変貌してゆく。とはいえそのままでは周りの建物しか視界に入らず、一見して意味は無いように思われた。だがしかし。
「発進、ブラックキッサ―!!」
マスターブラックの掛け声とともに、店内が揺れ始める。巨大な窓から見える景色がだんだんと変わってゆき、気が付けば他の家々の屋根を見下ろす形になっていた。
「ロボだコレ!?」
窓兼壁に張り付いて下を覗き込んだ僕。そこからは時おりロボの足と思しきものが見え隠れし、そのたび巨大怪物との距離が縮まった。そう、店はロボで、ロボは歩いている。
意味が分からない。
『ブラック!』
畳み掛けるように理解不能の事態に襲われる中、マスターブラックを呼ぶ声が店内にこだました。
「おお、待っていたぞマスターシュガー、マスターオーレ!!」
「えっブラックって色じゃなくてコーヒーの話!!?」
「三店合体だ!!」
「応!!」
あいだに挟まる僕の叫びは綺麗に無視され合体が始まった。内部からでは把握しづらいが、モニターには外側からの様子がはっきり映っている。三体のロボが変形しながら宙を舞う、そのうちの一体はこの店のはずで、かなり激しい合体プロセスだが内部ではほとんどその影響を感じられず、コーヒーの一滴も零れていない。
「すごいだろう、あらゆる衝撃や振動を感じさせずゆっくりブレイクを楽しめる安心の店内!!」
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