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「うーん、うっすい記憶なんだけどね。たぶん気が付いたときには施設で育ってて、先生にいかにかわいがってもらおうかばかり考える子供だったから。ある日すげぇ真っ赤なワンピ着て派手な化粧の母ちゃんが来て、施設を出たのは覚えてる」
「どのくらいだ?」
「4歳か5歳くらい。思い出したくないから、ほとんど忘れたけど・・・・やっと家族ができたって思った。母ちゃん、夜は店をして、日付が変わっても忙しくてさ。俺は店でずっと絵を描いて遊んだり、常連さんと遊んだりしてたな」
「男関係激しかったろ」
「・・・・・今考えると、あったかもしんね。でも悠馬君に出会ってからは真面目だったよ」
「そうか・・・・・」
「母ちゃんの事、嫌い?」
「俺と暮らしてた頃、男がげきウチに来るときは、寒くても夜でも叩き出されたからさ」
「そうなんだ」
子供の頃のことは聞いたことがなかった。この時初めてかもしれない。
「本当の母親が、母ちゃんに知らせないで子供を産んでたんだって。俺を産んだせいで亡くなったらしい。養子にもらわれたんだけど、その家で本当の子供が生まれたからって捨てられて・・・・そんなこんなで施設に引き取られて。母ちゃん、『やっと見つけた』って云ってた。探してくれる人いるんだーって嬉しくなってさ。その日のうちに懐いたよ」
「丁度俺がいなくなって、少しは淋しいとか思ったんだろうか」
「当たり前だよ。でも俺は兄ちゃんの身代わりだったとしても、十分幸せだったし。母ちゃんが死んで、また一人になるのかと思ったら、兄ちゃんが拾ってくれた」
「拾ったとか言うな」
「その時からアンタら親子には感謝しているんだ」
理玖の子供の頃の話を初めて聞いた。
コイツは普段そんなことはおくびにも出さない。弟がいると聞いて愛美に対して激怒したほどだ。
理玖の事も最初、憎々しく思った。慕われるなんて申し訳ないことだ。
「俺は最初、お前が羨ましかったんだ。俺が受けることのなかった母親の愛情を、お前が受けていると知って・・・・愛美にも酷い事を言った」
「母ちゃんにとって、いつも一番は兄ちゃんだったよ。傍にいても『桂斗はね』っていつも兄ちゃんの話してた。嫉妬したのは俺の方かも」
二人とも母を巡っていい感情は持っていなかった。
なのに今は、無くてはならない人間になっている・・・・人生とは不思議なものだ。
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