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「二人だけの結婚式は、母ちゃんや本当の両親のためにやりたいんだ」
その言葉に心臓が鷲掴みにされた気がした。
そして目に熱いモノが込み上げてくるのを感じて後ろを向いた。
「お前・・・・そんなの・・・・ズルいだろ」
「披露宴は雷文虎太郎に利用されるだけのセレモニーでしょ。心のこもった式は、二人だけでいいかなって」
「お前は本当にズルい」
どこに潜入させても、するりと人の輪の中に入って違和感がない。
人当たりが良くて、明るくて・・・・・そんなコイツの性格は、重い過去が作り出したものだった。
こんなに傍にいたのに、そんな事実は初めて聞いた。
いつも物事を軽く往なすか、スルーしているように見えたのに、こんな重い決断はしっかり下せる。コイツはすごい奴なんだ。
弟の過去、自分との関係の深さを、桂斗は改めて知った。
「お前が好きなようにしていい。俺は、お前が決めたことに異論はない」
「女装だったらどうする?」
悪戯っぽく笑う・・・・・その笑顔も眩しい。
どんな気持ちで子供時代を過ごしたんだろう。それなのに、自分には屈託のない笑顔を見せる。
他者に向ける笑顔は世渡りとしての笑顔。今はその笑みと、自分に向けられる微笑みは違っている。もう区別がつくようになった。
「お前の好きにしろ」
桂斗には、弟に抗う術を持っていなかった。コイツのためなら何でも許してしまう。
白いタキシードを着た彼は、眩しいほどの男ぶりだった。恭介も真一もほぅと溜息をついたくらいだ。
「似合ってるな」
「ええ、お似合いです」
「若、さすがモデルですね」
デザイナーも横に控えて絶賛している。『そりゃ、そうだろう』・・・・桂斗は満足げに頷く。
ますます自慢の弟になる・・・・そして現在は自慢の恋人だ。
「また会場は品川のホテル使うらしいね」
「前と同じだ。相手も、無論警戒するだろう」
「あの時は警察との協力関係を結んだが・・・・今回は赤龍と協力するわけにいかないし、どうするつもりだろう」
「警察は何かあれば踏み込んでくる。結婚披露宴なんてマークしやすいし・・・・」
「会場の中で決着するしかないということか」
「まぁ、そう云うことだろう」
「組長にも何も知らせてこないの?」
「いつもいいようにやられる。作戦は知らされない」
「探る方法ないのかな・・・盗聴でもしようか」
「七生に手配させろ」
「御意」
恭助は廊下に出て携帯電話を取り出し、七生に指示を出している。
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