今宵の月は・・・・

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理玖は白いスーツを汚さないように慎重に脱ぎ始めた。 コイツは俺のために白のスーツを着る・・・・『白』は相手のために生きることを意味する。 それを引き受けるのはこの自分一人・・・・桂斗はそれを思って、決意を新たにした。 数か月後・・・・むつみはこの写真撮影が終わると、電撃的に芸能界引退を発表した。 出来ちゃった婚で、相手は若手の歌舞伎役者だという。 「捕まっちゃたのかな」 理玖はくすくす笑った。 「そうだろうな。でも本性出さずに何年、梨園の妻が演じられるのか」 「すぐ離婚かもね」 「何年も騙しおうせるとしたら、大した役者だ」 「バレないでやれたらね~」 結婚後の二人がこんな穏やかな会話をしていたことを、むつみは知る由もなかった。 1か月後、出来上がった雑誌の特集でにむつみと理玖のブライダル写真が載った。 見回りから帰って来ると、今のソファの上に何気なく、それでいて意味ありげにのっていた。 「理玖のヤツ・・・わざとらしいんだよ」 桂斗は手に取ってパラパラとページをめくった。 一日中撮影で疲れたと言っていたが、そんなに写真の数としては多くない。 「これだけで一日かかるのか・・・・大変だな」 むつみはアイドルらしく写真に納まっている。背も150cmくらいだろう。理玖と並ぶと小柄でかわいく見えた。女と並ぶとこんな感じなんだな・・・・桂斗は深い溜息をついた。 前はミニスカートなのに、上にかかった白いチュールレースが後ろまで伸びていて長く引きずっている。隣にはいつも見慣れているはずの弟が、白いスーツで彼女の腰に手を回している。 心臓の奥がチクリと痛む。 アイツの気持ちはわかっているのに、どうしてこんなに胸が苦しいんだろう。 「どう?俺ってイケメン?」 夢中で見ていて、背後に人影が近寄ってきているのも気が付かなかった。 「ああ、カッコいい」 「えー、そこはいつも通りに言ってよ」 「いつも通りってなんだ」 「そうでもねぇ・・・とかさ」 「そう言って欲しかったのか?」 「いや、褒めてくれてうれしい」 後ろから肩を抱きしめられる。 耳元にかかる吐息が、体中の血液を逆流させる・・・・・そんな甘い声で囁かないでくれ。 回された腕から仄かな湯気が立っていて、石鹸の臭いがした。
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