今宵の月は・・・・

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「兄ちゃん・・・・」 呼んでもじっと立ったまま、こちらに目線を合わせてくれない。 「桂斗、今日はご苦労。採寸をしたかったんだ」 「ああ」 会長の問いには短く答えが返ってくる。表情は無い。まるで何事もなかったかのようにデザイナーと話し始めた。 そういう時はすごく傷ついている。表だって感情を顔に出す人ではない。 でも、内面はマグマの様に燃えていて、激しい感情を持っている。 「採寸だけでいいんだな。1時間もかからないだろう?」 「女物と違ってオーダーメイドのテーラーは細かい部分まで合わせるもんなんだよ」 「今回は女物はないんだな」 桂斗は会長をきっと睨みつけた。 佐竹との結婚式の時・・・・彼が高校生だった頃の桂斗が着たあの衣装の文句だろう。 七生に探してもらってやっと見つけた写真は、若々しい健康的な美しさと艶やかさがあった。 その衣装でに放蕩を振るっている姿は、まるで映画の様だった。 「女っぽくなくて、なのに綺麗だったよ」 「は?お前見たのか?」 「あんなの着て欲しいな」 「バカ言え!俺はもう20代後半なんだぞ」 「兄ちゃんは若く見えるし、全然変わらないじゃん」 「バカ!///ありえねぇ・・・・」 なぜこのタイミングで頬を赤らめたのか・・・・もしかして着てもいいと思ったのかな。 「写真・・・みんな捨てたと思ったのに」 「佐竹のために着たのかと思うと、はらわた煮えくり返りそうだったけどな」 「あんなの着なくていいだろう。公の場で、組長としては着れない」 「俺のためだけならいいの?」 そう返されると思っていなかったらしく、驚いたような顔で振り向いた。
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