345人が本棚に入れています
本棚に追加
「兄ちゃん・・・・」
呼んでもじっと立ったまま、こちらに目線を合わせてくれない。
「桂斗、今日はご苦労。採寸をしたかったんだ」
「ああ」
会長の問いには短く答えが返ってくる。表情は無い。まるで何事もなかったかのようにデザイナーと話し始めた。
そういう時はすごく傷ついている。表だって感情を顔に出す人ではない。
でも、内面はマグマの様に燃えていて、激しい感情を持っている。
「採寸だけでいいんだな。1時間もかからないだろう?」
「女物と違ってオーダーメイドのテーラーは細かい部分まで合わせるもんなんだよ」
「今回は女物はないんだな」
桂斗は会長をきっと睨みつけた。
佐竹との結婚式の時・・・・彼が高校生だった頃の桂斗が着たあの衣装の文句だろう。
七生に探してもらってやっと見つけた写真は、若々しい健康的な美しさと艶やかさがあった。
その衣装でに放蕩を振るっている姿は、まるで映画の様だった。
「女っぽくなくて、なのに綺麗だったよ」
「は?お前見たのか?」
「あんなの着て欲しいな」
「バカ言え!俺はもう20代後半なんだぞ」
「兄ちゃんは若く見えるし、全然変わらないじゃん」
「バカ!///ありえねぇ・・・・」
なぜこのタイミングで頬を赤らめたのか・・・・もしかして着てもいいと思ったのかな。
「写真・・・みんな捨てたと思ったのに」
「佐竹のために着たのかと思うと、はらわた煮えくり返りそうだったけどな」
「あんなの着なくていいだろう。公の場で、組長としては着れない」
「俺のためだけならいいの?」
そう返されると思っていなかったらしく、驚いたような顔で振り向いた。
最初のコメントを投稿しよう!