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「やあやあ、お二人さんお揃いで」
そう声をかけてきたのは、箭内薫である。
艶やかな栗色の髪を後ろでまとめ、前髪は花飾りのピンでとめている。結馬達とは二つ歳が違い、”お姉さん”という雰囲気がある。
「なにか面白そうな話をしてるみたいだけど、わたしも聞かせてもらっていいかね?」
薫は興味津々といった面持ちでこちらを見ている。征雄は、どうぞどうぞと言いながらイスを勧めた。
薫は席につくと、目を輝かせながら二人を見つめた。
結馬は、最近続いている出来事と、先ほどの征雄との会話のひととなりを話した。
「ふうん。やっぱり気味が悪いよねそういうの」
薫は少し難しい顔をする。
「今は男の人もストーカー被害に遭うっていうし、もしかするかもしれないよ」
「だよな。だから俺もさっきストーカーじゃないかって言ったんだよ」
征雄の方は楽しそうに見える。
「それで、どうするの?」
「どうもできないよ。実際に誰か人を見たわけじゃないし、何か荒らされたわけでもなから」
「でも、いざという時の為に何か考えたほうがいいんじゃね?」と薫は顔を見合わせて、うんうんと頷いている。
どうやら、二人の間では結馬はストーカー被害に遭っていることになったようだ。
「いや、まだストーカーだと決まったわけじゃないし――」
「じゃあ幽霊か?」
征雄の言葉を聞いて、薫がやだぁと顔をしかめた。
「どっちにしても、何かあったら俺にまかせろ」
「それは心強いですな」
結馬は半分呆れながら、テーブルに肘をついて手のひらの上に頭をあずけた。
そんな結馬にかまわず、話は先へ進んでいく。
「前にテレビで見たけど、こういうのって実際に事件にならないと警察って何もしてくれないんでしょ?」
「俺もそれ見たことあるわ。何かあってからじゃ遅ぇよな」
「そうだよね。それに、付き纏われてるだけでもこっちは迷惑だし、やっぱり気味が悪いよ。そういうのって相談できる所ないのかな?」
征雄がさぁね。とつぶやく。
「ねぇ、結馬。そういうの少し調べてみたら?」
結馬は、ふぅと小さくため息をついた。
「まぁ、何かあったらね」
「だから、何かあってからじゃ遅ぇんだよ」
「そうだよ、わたし達じゃ出来ないこともあるんだし」
二人が結馬をまくしたてる。
心配をしてくれているのだろうが、なぜか責めたてられているような気がしてならない。
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