画廊

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 その奇妙な店は繁華街の片隅にひっそりと看板を出していた。  --ここだな--  洋介が飾り窓から覗いてみると薄明かりの下にいくつもの絵画が展示されている。夢を売る画廊の話しは本当らしい。古びたドアから店内に入ると、カウンターに紳士然とした老人の姿がある。 「いらっしゃいませ」 「夢を売る画廊っていうのはここ?」 「さようで」 「どんな夢があるの?」 「店内の絵画が夢になっております」 「ほう」 「空の絵を購入された方は空飛ぶ夢を、海の絵を選ばれたのなら美しい海を楽しむことができます」 「面白い。一枚買おう」  洋介は早速展示品を物色し始めた。目当ては美人画。夢の中ぐらい妻を忘れて美女と色恋を過ごしたい。  ひとしきり店内を見回った洋介は二枚の絵に目をつけた。一枚は湖畔に佇む金髪の美女。もう一枚は日本家屋の窓辺に立つ艶やかな後ろ姿の女が描かれている。  どちらも甲乙つけ難い。だが洋介の懐事情では両方は購入できない。 「これだな」  悩んだ末、安価な後ろ姿の女を選んだ。 「ありがとうございます」  帰宅した洋介は善は急げと自室に絵を飾り、鑑賞もそこそこに寝床についた。  虚ろな意識の中、目の前に窓辺に寄り添う女の後ろ姿がある。女の肩を叩いて声をかける。  --あっ--  いい夢のために金を惜しんではいけないらしい。振り向いた女の顔は描かれていなかった。
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