【6】消えろ、きえろ、きえろ

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これは仲井さんのためなのに、どうしてそれを分かってくれないんだろう。 彼女だって早く元の気持ちを取り戻して、イラストと向き合いたいだろうに。 睨みつけてくる彼女を睨み返し、ぼく達は対立する。逃げている、逃げていないの言い合いは飽きもせずに繰り返された。 ぼくは逃げていない、仲井さんをこれ以上傷つけたくないから元に戻りたいんだ。それだけなんだ。 だから言われたくなかった。聞きたくもなかった。思い出したくもなかった。 「わたしに知られたくないの? 映画よりも好きなものがあることを」 やめてくれよ。 「だけど、わたしには分かっちゃうよ。きみの、好きな気持ちを持っているから」 やめてくれ。 「映画よりも好きなんでしょ。ギター」 その言葉を聞いた瞬間、ぼくは腹の底から「嫌いだ!」と叫んだ。 周りに通行人がいたかもしれないけれど、そんなの構っている余裕すらない。彼女に何度もギターなんて知らない。 嫌いだ。大嫌いだと主張する。明らかにぼくは動揺していた。 今のぼくの気持ちが仲井さんにどう届いているのかは分からない。 ただ、彼女は鋭い眼光を弱め、ぼくを哀れむように見つめていた。 それがぼくをもっと惨めにさせた。そんな目で見ないでくれよ。 ぼくはぼくの意思でギターをやめたようと思ったし、嫌いになったんだ。なったんだよ。 気付くと仲井さんから手を放し、背を向けて走り出していた。 呼び止める声すら逃げたい衝動の一因になる。 ぼくはわけも分からず、頭を真っ白にしてがむしゃらに走った。 あの頃の弱虫な自分を知られたくない一心で。 彼女から逃げ出した時点で弱虫毛虫だというのに。 息が切れるまで走った。 流れる汗を拭いもせず走った。 肺が痛くなるまで走った。 とうとう限界を迎え、ぼくはもつれそうになる足を止めて膝に手を置く。息を吸っても吐いても苦しい。
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