【6】消えろ、きえろ、きえろ

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「ふざけるなよ!」 「な、中井くん!」 感情まかせに雑誌を向こうに投げてしまう。 仲井さんの目を気にする余裕はなく、ぼくは壁にぶつかった雑誌を睨みつけることしかできない。 そして、悲しそうに転がる雑誌を目にしてうなだれてしまう。 もう、わけが分かんねーよ。 なんで仲井さんの中に、映画以外の気持ちが宿っているのかも。 今までそれが出なかったのかも。なにもかも。 隣に座っていた仲井さんが雑誌を取りに行く。 止める気力すら無くなったぼくは、ただぼんやりと様子を見守るだけ。 彼女が折り目の付いた表紙を手で一生懸命に伸ばしながら戻って来る。 放っておけばいいのに、わざわざぼくに寄り添うように腰を下ろす。 「それ、捨てて良いよ。もう、ぼくにはイラナイものだから。燃やしたらいいかも。そしたら、ぼくの気持ち……仲井さんから消えてくれるかもしれない」 仲井さんは聞く耳を持ってくれない。いつまでも雑誌のシワを伸ばしている。 ふとその手を止め、彼女はぼくの左手を取った。 手のひらを自分側に向けて、指先を優しくなぞってくる。 「五本指に全部マメができているね。これ、ギターの?」 何も言えないでいるぼくに彼女は続ける。 「言いたくないなら言わなくてもいいよ。ただ、中井くん、本当に苦しそうだから。今もすごく胸が痛くて」 「……ごめん。その痛みはぼくのせいだ。気分が悪くなったのも、ぜんぶ」 「気にしていないよ。わたしだって中井くんに痛い思いをさせたから」 マメができている指ごと、左手を自分の手と結んでくる。 あったかい体温を振り払う気にもなれず、弱いぼくはその優しさとぬくもりを逃がさないように握り返してしまった。 会話が途切れ静まり返る。仲井さんは無理に聞きだそうとするつもりはないようで、ぼくが動くまで自分もここにいると宣言してきた。 手を結ぶのは、また置いて行かれないようにするため、だそうな。逃げたことはちゃっかり根に持っているみたいだ。 今何時だろう? 仲井さん、八時には帰らないと、お父さんが心配するんじゃ。 でも、今の彼女はそれを言ったところで聞いてはくれないだろう。 結んでくる手がそれを教えてくれているのだから。
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