【6】消えろ、きえろ、きえろ

9/24

11人が本棚に入れています
本棚に追加
/192ページ
「ギターを始めたのは、小学五年生……だったかな」 意を決したぼくはゆっくりと口を開き、語りを始める。 あれは小学五年生のお正月のことだった。 田舎に住んでいるばあちゃんの家に親戚一同が集まった。 恒例となっている行事だった。 そこで、いつも遊んでくれる大学生の従兄弟の兄ちゃんがアコースティックギターを持ってきていた。 それがすべてのはじまり。 ぼくはギターに興味津々だった。 楽器の名前は知っていても、現物を見るのは初めてで、それがどんな風に音を奏でるのか、曲を弾いてくれるのか、想像もつかなかった。 だから兄ちゃんがギターを弾き始めた時の衝撃はすごかった。 曲とか、音とか、そんなものよりもなによりも、ギターを弾く姿がカッコイイ。 左手の指で弦を押さえ、右手の指で弦を弾く、その姿が本当にカッコ良く見えた。 ただでさえカッコイイのに、兄ちゃんに曲をリクエストすると、メロディを奏でてくくれた。どんな曲だって弾いてくれた。 それがまたカッコ良かった。 ヒーローのようにも思えたし、ちょっと大人びた感じが男心をくすぐられた。 あっという間にギターの虜になったぼくを察した兄ちゃんが、『弾いてみるか?』と、ギターを触らせてくれた瞬間は今も覚えている。 大きなギターを抱えるように持ったことも。 硬い弦をちっとも押さえられなかったことも。 それにぼくがぶう垂れたことも、兄ちゃんが大笑いしたことも。 ばあちゃんの家にいる間、ずっとギターを触っていた。 あまりにも夢中になっていたものだから、兄ちゃんはぼくに一つの提案をしてきた。 『英輔。おれの家に使っていないギターがあるんだけど、そんなに気に入ったなら貸してやろうか?』 後日、兄ちゃんはぼくの家までギターを届けてくれる。 それは、古くて安い型のエレキギターだった。 両親が呆れるほど大はしゃぎしたぼくは、そこでたくさんのことを学んだ。 楽譜の読み方はもちろん、ギターの手入れから、エレキギターに必要な道具から、練習の仕方から。
/192ページ

最初のコメントを投稿しよう!

11人が本棚に入れています
本棚に追加