【6】消えろ、きえろ、きえろ

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練習を始めた当初は地獄だった。 弦は硬いし、押さえられないし、コードは覚えられないし。 その内、指にマメもできて押さえることもつらい。 それが潰れたら尚更、つらくてつらくて。何度泣きそうになったことか。 それでもギターをやめようとは思わなかった。 どうしても兄ちゃんのように弾きたくて、必死に練習をした。 実は兄ちゃんも両親も、すぐに飽きるだろうと踏んでいたようで、ぼくの夢中っぷりには驚いていたようだ。 ぼくの熱意が伝わったのか、兄ちゃんはよく家に遊びに来て、ギターのことを教えてくれた。 『いいか。まずは感覚で覚えるんだ。コードで覚えようとするんじゃない。音で覚えるんだ。弦の数を減らして弾いてみよう。慣れてきたら、弦の数を増やして色んな曲に挑戦だ』 ギターをはじめて一年。 ぼくのギター熱に親も本気を感じ取ったようで、その年のクリスマスはギター雑誌と教則を数冊買ってくれた。 ぼくにとってそれは最高のプレゼントだった。 周りの友達はゲーム機を買ってもらっただのなんだの言っていたけど、それに匹敵するくらい素晴らしいプレゼントで、それらがボロボロになるまで読んだ。 特に雑誌の記事は面白くて、気に入った話にはべたべたと付箋紙をした。いつでも読めるように。 「雑誌に付箋紙をする癖はここから始まった。今も雑誌に付箋紙を付けるのは、その名残だよ」 「ほんとうに、好きだったんだね」 「ばかみたいに夢中になったよ。このマメも、何度潰したか分からないや」 仲井さんと結んでいる左手を流し目にする。 あの頃は楽しかった。 ギターにひたすら打ち込むことが好きで、少しずつ上達する自分が好きで、ギターを弾き自分が好きで仕方がなかった。
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