【6】消えろ、きえろ、きえろ

16/24

11人が本棚に入れています
本棚に追加
/192ページ
終わった後、ホール側の階段まで呼び出されたぼくは案の定責められた。 旭を中心に、『なんでお前はそこまで足を引っ張るんだ』とか、『練習しているのかよ』とか、『みんなの迷惑なんだよ』とか、色んな事を言われたけど反論する気力もなかった。 その時のぼくは、ただ頭の中が真っ白でまっしろで。 旭から胸倉を掴まれても、体を揺さぶられても、さすがにそれはやめろとメンバーが止めても、何も言えなかった。 どうしてこんなことに。 ただ、ぼくは好きなものを好きだから始めただけなのに。 『もういい。お前なんてメンバーから外す。ギターなんてやめちまえ!』 『あ、旭だめ! 英ちゃん!』 旭から突き飛ばされたぼくは、無抵抗のまま階段側に倒れた。 ぐらり、ぐらり、と崩れ回る視界。 真っ逆さまになる景色は今も覚えている。 そこで慌てた旭が手を伸ばしたことも、菜々や他のメンバーが叫んでいたことも。 必死になれば旭の手を掴むこともできたけど、ぼくは流れのまま落ちていった。 心底疲れていたんだ。責められることにも、ギターで悩むことにも、なにもかも。 浮遊感の後に襲って来たのは強い衝撃と痛み。ぼくは気を失ってしまった。 「救急車が来る大ごとになってさ。運悪く頭を打ったぼくは四針縫う怪我を負った。ついでに右手首は骨折。もう踏んだり蹴ったりだったよ」 「右手首。じゃあギターはもちろん、ステージにも」 「無理ムリ。全治六ヶ月の怪我を負ったんだ。ギブスデビューしたぼくに、ギターなんか弾けるはずもないよ」 手首の骨折は不幸中の不幸だった。 そこは治りにくく、握力が戻るまで一年を要することもあると説明を受けた。 少なくとも骨がくっ付くまではギターに触れることができないことも言われたけど、ぼくはちっとも悲しくなかった。 寧ろ、触れない口実ができて嬉しかった。 もう無理にギターに触らなくてもいいんだと、あの時はホッとして、安心して――やけに涙が出て。
/192ページ

最初のコメントを投稿しよう!

11人が本棚に入れています
本棚に追加