【6】消えろ、きえろ、きえろ

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『旭。ぼくはもう、ギターはやらないよ』 何を言っているのか分からない、という顔で凝視してくる旭をぼくに笑いかけた。 『ギターって女の子にいかにもモテそうな楽器じゃん? それが弾けたらカッコイイし、モテると思ったからやり始めたけど飽きちまった。指にマメができるばっかでちっともモテないし』 『え、いすけ……何言って』 『今度は楽にモテる趣味を見つけないとなぁ』 目を白黒させる旭に、だから気にしなくて良いのだと伝える。 ぼくはもう、ギターを弾かない。ギターに触れる、それすら嫌気が差したのだから。二度とメンバーの下には戻らない。 『お前達はちゃんと練習したんだからステージに出ろよ。きっと盛り上がるから。怪我の具合が良かったら応援にも行くし』 『ま、待てよ。英輔、待ってくれよ。お前のギター好きはおれが一番知っているんだ。やめられるわけ……おれの言葉を真に受けたのか? だったら謝るから。だから』 『旭』 必死に止めてくる旭の言葉を遮り、ぼくは冷たく告げた。 『ギターなんか嫌いだよ。大嫌いだ』 揺るぎない感情を宿した言葉に、もう旭は何も言えないようだった。 ただ『ごめん』と、ひとつ零して下唇を噛みしめていた。 ぼくはそれに見て見ぬ振りをして、『メンバーによろしくな』とだけ返した。 それは心からの応援じゃなく、ぼくなりの決別の意味が含まれていた。 大好きなギターをやめたぼくは、それからしばらくぼんやりとした日々を過ごした。 すべてをギターの練習に費やしていた、その時間が空きになったのだから毎日が手持ち無沙汰。 やることもなく、だらだらと時間を過ごした。 学校に行けるようになってもそれはいっしょ。 休み時間に読んでいたギター教則を捨て、友達に借りた漫画を適当に目を通すようになった。 放課後はまっすぐ家に帰ったり、友達と寄り道をしたりするようになった。 ギター関連のものは一切触らなくなった。 当然、旭達とは疎遠になった。 声を掛けられれば、いつもどおり返事をするよう努めたけど、ぼくはできる限りメンバーと距離を置いた。
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