【6】消えろ、きえろ、きえろ

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会話をするだけであの日々を思い出しては怯えるぼくがいたから。 表向きでは気さくに話し掛けているけど、内心じゃバカにしているに違いない。悪口を言われているに違いない。四人で笑い者にしているに違いない。 ギターをやめたのだから、もう関わらないでくれ。それが本音でもあった。 だから旭がどんなに謝って戻って来いと誘ってきても、 『ぼくはギターが嫌いなんだよ』 と、返したし、菜々が『五人で話し合うチャンスをくれないかな』と願ってきても、 『なんで? ギターはもうやらないよ』 と、伝えた。 ぼくはぼくを守るために必死だった。 ギターを通して知りえた友達、ほのかな恋心、楽しかった思い出にぜんぶ蓋をしようと、好きなものだったギターを否定した。否定し続けた。 一度だけクローゼットに仕舞っていたギターに触れてみたことがあったけれど、弦に触れただけで体が震えた。 怖さのあまりにギターを弾くことができなくなっていた。 もう二度と、つらい思いをしたくない。 その思いで中学を卒業と同時にメンバーと連絡は断った。 誰に何と言われようとぼくはギターを弾かない、ギターへの想いは消すと心に誓って。 「映画が好きになったのは、ぼくが怪我をしている間、暇つぶし程度にDVDを見続けたからなんだ。映画はぼくを支えてくれた。嫌なことも、傷付いている自分も全部忘れられる世界観を見せてくれたから」 そう、映画が好きになったのは崩れ落ちそうなぼくを支えてくれたからなんだ。 今も映画は好きだ。 気分に合わせて、ぼくの知らない色んな世界を見せてくれるから。 夢中とまではいかないけど、一番の趣味だと胸を張って言えるほどにはなった。 これからも映画を一番だと主張し続けようと思っていたのに。 「なんで、ギターを忘れられないのかな」 がんばって笑みを作るけど、声が震えてしまう。 ギターをやめると決めたその日から、今の今までギターは嫌いだと思い続けた。ギターを好きだった自分を否定し続けた。 傷付くだけのものだから、もう絶対にやらないと誓ったし、新しく見つけた好きなものに夢中になろうとした。 ギターは思い出すだけで吐き気がする。それだけつらい思いだと知っているのに、ぼくは忘れられない。 どこかで嫌うことのできない自分がいることも、ぼく自身は知っている。 どうしたって想いは消えてくれない。
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