【6】消えろ、きえろ、きえろ

21/24

11人が本棚に入れています
本棚に追加
/192ページ
「中井くん。痛いよ、本当に痛い。自分を否定する中井くんが、なによりつらい。きみはいつも、こんな思いを抱えていたんだね」 誰にも相談できず、いつも痛みを抱えていたんだね、と仲井さん。 ぽろぽろと涙を落としてくる彼女に「泣かないで」 「泣かれると、ぼくはどうすればいいか分からなくなる」 「違うよ。わたしじゃなくて、中井くんが泣いているんだよ。代わりを務めているだけで、わたしは泣いていない。ちっとも……泣きたいほどつらい気持ちを抱えていたのは中井くんだよ」 そうなのかな。 ぼくは泣きたかったのかな。 ギターを触らなくていいと思った時は、ホッとして涙が出たけど。 仲井さんにぼくの気持ちがあるからなのか、もうなにも分からない。自分のことなのに、これっぽっちも分からない。 分かることといえば、ひとつ。 仲井さんがぼくのために泣いてくれている、ということくらい。 「疲れちゃったよ仲井さん。ほんと、疲れた。ぼくはただギターが好きなだけだったのに、なんでこんなことになっちゃったんだろうね?」 真っ暗な学校。 三階と四階の間にある踊り場の鏡の前で、ぼくは彼女のぬくもりを感じていた。 あたたかな涙と、腕の温かさと、泣いてくれる優しさを、いつまでも感じていた。
/192ページ

最初のコメントを投稿しよう!

11人が本棚に入れています
本棚に追加