【6】消えろ、きえろ、きえろ

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「……元に戻ったね、これ」 仲井さんが手に持っていた映画雑誌のページを開く。 さっきまでギターの楽譜が載っていたページは何事もなかったかのように、映画の記事で埋め尽くされていた。 それでいいんだと思う。 今のぼくには映画しかないと思っているから。 「なるべくギターには関わらないようにするよ。痛い思いはしてもらいたくないから」 「わたしは平気だよ。中井くんに比べたら、こんなの痛くも痒くもない……中井くんは見た目に反して真面目さんだから、ひとの心配ばかりするね」 「見た目は余計だよ見た目は」 軽くおどけて、歩みを再開する。 「さあ帰ろう。仲井さん送るよ。もう八時を過ぎた。お父さんが心配しているよ」 駆け足で隣に並んで来る仲井さんがそっと、ぼくの左手を取った。ごつごつとマメができた指先を触ってくる。 「中井くんのギター。聞いてみたかったな。きっと弾く姿はカッコ良かったんだと思う」 「どうだろうね。取りあえず、気取っていたことだけは認めるよ」 「中井くん。まだ消えて欲しいと思う? ギターの想い」 「そりゃもう……ギターが弾けなくなった今、この想いは邪魔なだけだし」 「そっか。中井くんがそう決めたならもう何も言えないけど……でも悔しいな。わたしは中井くんのギターを弾く姿を知らない、それがとっても」 明るい声音でそう言った仲井さんが見上げてくる。 らしくない発言に戸惑ってしまった。悔しいって……それ。 「きっと弾く姿はカッコイイよ。だって、わたしの彼氏だから」 期間限定だけど、という余計な言葉がなければ素直に喜べたところだ。 「なんかスッキリした気分だ。仲井さんに全部ぶちまけたからかな。気が楽になった。これを機にまた夢でも持とうかな。総理大臣になる、とかさ」 「あはは。絶対になさそう」 「そりゃ絶対になさそうなものを言ったからね」 「中井くん、夢また見つけられるといいね。わたし、何があっても中井くんの味方にいるから。傍にいるから」 「見つかるかな」 「だいじょうぶ、きっと見つかるよ」
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