【7】いま、ここで叫ぶ

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右の下書きにはコックさんの格好をしたイヌがメニューを紹介している。 左の下書きは同じくコックさんの格好をしたネコ。 うーん、どっちも可愛いけど。 「ヒヨコにしなかったの? 仲井さん得意でしょ?」 からかってやると、「中井くんのバカ!」特大のバカをもらった。 なんだよ、可愛いじゃん。ヒヨコ。 「ま、真面目に選んでよ。中井くんの意見でその、決めようと思っているんだから」 ごにょごにょと仲井さんが口ごもっている。最初しか聞き取れなかったんだけど。 ぼくは下書きを見比べた。 どっちも可愛いと思うよ。 ヒヨコならそれ一択だったけど、イヌとネコなら前者かな。 見るからに、仲井さんが気合を入れて描いているのはイヌだから。 きっとお気に入りなんだろう。見ただけで分かる。 なにより彼女を持つぼくだ。 イラストに関する彼女の気持ちはなんでもお見通しだ。 「ぼくは右が好きだよ。ネコもいいけど、イヌの方が可愛い」 途端に仲井さんの機嫌が直った。 「や、やっぱりそっかぁ」 と、言って右の下書きを見つめ、これにするとふにゃふにゃ笑う。 「なら右にする。これにペン入れをしよう。それが終わったら中井くん、一緒に色を塗ろうよ」 「えー? ぼくの下手くそっぷりは知っているだろう? 絵が台無しになるって」 「そんなことないよ。誰かと一緒に塗った方が楽しいし」 お母さんとの思い出を大切にしている仲井さんらしい台詞だった。 ぼくは頬を掻き、目を泳がしながら困ったような素振りを見せるけど、仲井さんのお願いなら断るわけにもいかない。 彼女の中の気持ちも騒いでいるし、ぼく自身の気持ちも、その、あれだあれ。期待しているというか、なんというか。 「分かった。じゃあ、この雑用が終わったら一緒に塗ろう。それまでにペン入れを終わらせておいてくれよ? じゃないと、また別の雑用を頼まれるだろうから」
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