【7】いま、ここで叫ぶ

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「柳のせいじゃねーよ。信号無視したバイクが悪いんだって。犯人は?」 「専門学生の兄ちゃんで、逃げはしなかったよ。救急車もその人に呼んでもらったし」 「そっか……けど柳がいないとなると、ギターはおれだけか。正直厳しいな」 「宮本、へっぽこだもんな」 「それはお前もだろう。二人合わせて、なんとなく演奏になっていたのに。柳はボーカルだけにするとして、代わりにギターが弾ける奴を探さないと」 でも今からギターを弾ける奴を探すなんて、ギターが弾ける奴なんてそうはいない。 宮本がそう呟いた瞬間、柳が弾かれたようにぼくを見つめてきた。 会話を聞いていたぼくは、それに気付かない振りをしてトイレに立つ。 「あ、中井くん」 仲井さんが声を掛けてくるけど、教室から逃げたくて仕方がなかった。 柳の考えていることは大体読めている。 面と向かって頼まれたら、断り切れる自信がない。 「おい中井、待てって中井!」 ああ、自信がないから逃げているのに柳が追い駆けて来る。 怪我人は腹部も負傷しているのか、横っ腹を押さえながらぼくの前に回ってきた。 そんな姿を見たら、否応なしにでも足を止めるしかない。 ゼェハァと肩で息をする柳は、呼吸も整えずにぼくを見つめてきた。思わず目を逸らしてしまう。 「……柳。ぼくに頼もうとしているなら、ごめんけど無理だ。もう、ぼくはギターを弾いていない。いや、弾けなくなったんだ。だから」 「それでも、ちゃんとお前に頼ませてくれ。中井、おれの代わりにギターを弾いてくれって。 本当は自分で弾きたいよ。夏休み中、ずっと宮本と練習していたんだ。学校が始まってからは、みんなで時間の許す限り全体練習をしていた。必死に練習していたんだ。なのに、こんな形で迷惑を掛けるとは思わなくて」 メンバーの前では強がっていた柳の顔がくしゃっと歪んでしまう。 それを直視してしまったぼくは何も言えなくなる。 ほらみろ、面と向かって頼まれたら、断り切れる自信がなくなるじゃないか。
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