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「柳のせいじゃねーよ。信号無視したバイクが悪いんだって。犯人は?」
「専門学生の兄ちゃんで、逃げはしなかったよ。救急車もその人に呼んでもらったし」
「そっか……けど柳がいないとなると、ギターはおれだけか。正直厳しいな」
「宮本、へっぽこだもんな」
「それはお前もだろう。二人合わせて、なんとなく演奏になっていたのに。柳はボーカルだけにするとして、代わりにギターが弾ける奴を探さないと」
でも今からギターを弾ける奴を探すなんて、ギターが弾ける奴なんてそうはいない。
宮本がそう呟いた瞬間、柳が弾かれたようにぼくを見つめてきた。
会話を聞いていたぼくは、それに気付かない振りをしてトイレに立つ。
「あ、中井くん」
仲井さんが声を掛けてくるけど、教室から逃げたくて仕方がなかった。
柳の考えていることは大体読めている。
面と向かって頼まれたら、断り切れる自信がない。
「おい中井、待てって中井!」
ああ、自信がないから逃げているのに柳が追い駆けて来る。
怪我人は腹部も負傷しているのか、横っ腹を押さえながらぼくの前に回ってきた。
そんな姿を見たら、否応なしにでも足を止めるしかない。
ゼェハァと肩で息をする柳は、呼吸も整えずにぼくを見つめてきた。思わず目を逸らしてしまう。
「……柳。ぼくに頼もうとしているなら、ごめんけど無理だ。もう、ぼくはギターを弾いていない。いや、弾けなくなったんだ。だから」
「それでも、ちゃんとお前に頼ませてくれ。中井、おれの代わりにギターを弾いてくれって。
本当は自分で弾きたいよ。夏休み中、ずっと宮本と練習していたんだ。学校が始まってからは、みんなで時間の許す限り全体練習をしていた。必死に練習していたんだ。なのに、こんな形で迷惑を掛けるとは思わなくて」
メンバーの前では強がっていた柳の顔がくしゃっと歪んでしまう。
それを直視してしまったぼくは何も言えなくなる。
ほらみろ、面と向かって頼まれたら、断り切れる自信がなくなるじゃないか。
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