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「今からギターができる奴を探す時間もない。もう、お前しか頼れないんだ」
「ぼくのギターレベルなんて」
「上手い下手じゃないんだ。おれだって下手くそだし、みんなだって下手くそだ。それでも、みんなでライブをやってみたい、その気持ちでがんばってきた。絶対に楽しくなると思ってさ」
「……柳」
「おれ、音楽が好きなんだ。歌うことも好きだし、楽器を弾くことにも興味があった。ライブをしようと決めた時、興味があったギターをやってみようと思って始めたんだけど、思いの外楽しくてさ」
痛いほど分かる、その気持ち。
ぼくだって昔は、中学時代は、似た思いを抱えていたのだから。
「宮本ひとりじゃ、ギター演奏は荷が重い。かといっておれは怪我で弾けない。中井、お前しかいないんだ。一生のお願いだ、ギターを弾いてくれないか?」
「ぼ、くは」
「あいつ等の努力を無駄にさせたくないんだ。おれの努力だって無駄にしたくない。練習には入れるところだけでいいから。頼むよ、中井」
真剣に頭を下げて頼み込んでくる柳を足蹴にすることはできなかった。
ぼくだって、本当は力になってやりたい。
こんなにも真剣な柳は見たことがない。
友達のために、メンバーのために、頭を下げる柳の気持ちに応えてやりたい。
だけど、ぼくはギターを弾くことがどうしてもできない。
あの時の苦い気持ちや、つらい思い出が仲井さんの中にあっても、無意識に拒絶反応を起こしてまう。
「柳……少し、考えさせてもらっていいか?」
弱虫なぼくは友達を傷付けたくない一心で、淡い期待を持たせてしまう言葉を返してしまった。
応えられないくせに、なにをやっているんだろう。
中途半端な優しさは相手を余計に傷付けるだけなのに。
にわかに表情が明るくなる柳は、「ああ。良い返事を待っている」と、頬を崩してくる。
それでもあいつの顔は、どこか泣きそうで、悔しそうな面持ちをしていた。
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